
「うちの商品は他社と比べて大きな違いがないから、価格競争に巻き込まれてしまう…」
そんな悩みを抱える経営者やマーケティング担当者の方は多いのではないでしょうか。
実際、多くの業界で製品の性能やスペックの差が縮まり、「差別化」がますます難しくなっています。では、そんな状況の中でどうやって自社の商品を選んでもらうのか?
今回は、まさに「差別化が難しい商品」の代表格、タイヤを製造・販売するミシュラン社が、世界的なブランドへと成長した裏側の話しです。
タイヤという“差が見えにくい商品”
タイヤは、一般消費者から見れば「どれも似たような黒いゴムの塊」に見えます。素人が見ても性能差はわからず、特別な機能があっても伝えにくい。価格で勝負すればすぐに消耗戦に突入してしまいます。
つまり、「見た目や機能では差別化しにくい典型的な商品」なのです。
ところがミシュランは、この“代わり映えしない商品”を、世界的ブランドに押し上げました。しかも、その方法は一風変わっています。
解決の糸口は「タイヤを売らないこと」?
話は今から120年以上前、1900年のフランスにさかのぼります。当時のフランスには自動車が3,000台しか走っておらず、タイヤを交換する人もほとんどいませんでした。
タイヤの需要を増やしたい。でも、クルマが走っていないからタイヤも減らない。そんなジレンマに陥ったミシュランは、ある“逆転の発想”にたどり着きます。
「人々がもっと車で旅をすれば、タイヤが減る。そしてタイヤを買い替えるようになる」
つまり、自社商品の“使用機会”そのものを増やす戦略に出たのです。
ミシュランガイドの誕生
その戦略の一環として生まれたのが、「ミシュランガイド」です。
このガイドは、当初は無料で配布される冊子で、ガソリンスタンドや修理工場、宿泊施設、そしてレストランの情報が掲載されていました。
中でも注目を集めたのが「レストラン評価」。地方の名店が紹介され、「ここまで行って食べてみたい」と人々の旅心をくすぐりました。
この施策のすごいところは、「消費者が車で移動する理由」を創出した点です。つまり、タイヤを売らずにタイヤの需要を創り出したということ。
「ブランド」としての進化
ミシュランガイドの人気が高まるにつれ、「ミシュランに載っている店=信頼できる」「星付きレストラン=最高の味」という評価が定着します。
そして、いつしかミシュランという名前自体が“信頼”や“クオリティ”の象徴となりました。
つまり、ガイドを通じて築かれた信頼が、本業であるタイヤのブランド価値にも波及していったのです。
教訓:売れないときこそ、売り方を変える
ミシュランの事例から学べる最も重要なポイントは、「商品そのものではなく、体験や意味を売る」という発想です。
- タイヤの性能を訴えるのではなく、「旅という体験」を提供した
- 顧客の行動を変えることで、間接的に商品の需要を喚起した
- 自社の信頼性を“他分野”から築き上げた
このように、直接的な売り込みではなく、顧客の行動や意識を変える施策が、長期的なブランド構築につながったのです。
現代ビジネスへの応用
「差別化が難しい商品」を扱っている現代の企業も、このミシュランの戦略から多くを学べます。
たとえば…
- 工務店が「理想の暮らし方」を提案するブログを発信する
- 弁護士が「もしものときの法律知識」を無料配信する
- 飲食店が「自宅で作れるレシピ動画」をYouTubeで公開する
いずれも共通するのは、「本業ではない情報提供を通じて、価値を伝える」こと。
つまり、売らずして売れる仕組みを作るという点です。
おわりに:あなたの商品の「物語」は何ですか?
差別化が難しい商品であっても、売り方を変えることで“世界一”にだってなれる。
ミシュランの事例は、それを雄弁に語っています。
あなたの商品やサービスにも、「体験」や「意味」を紐づけることはできませんか?
単なるモノやサービスではなく、「価値のある物語」を提供すること。
そこに、真の差別化のヒントが隠れているのかもしれません。